2002年12月3日(火曜日)
バスケで追うそれぞれの夢
港区拠点に8月結成「エクセレンス」
東京・港区を拠点に八月結成したバスケットボールのクラブチーム「エクセレンス」が、一日まで2日間、栃木県小山市で行われた関東総合選手権で準優勝した。選手は元全日本代表選手からストリートバスケットボールの元プロ選手、全くの無名選手と幅広い。練習場所を転々とし、スポンサーもないチームになぜ選手たちが集まるのか。.チームと選手の横顔を追った。
(井上 典子記者)
 関東総合選手権は、来年1月の全日本総合選手権(天皇杯)に地区代表として出場する権利がかかっていた。しかし1日の決勝戦、エクセレンスは横浜ギガキャッツに74対52で敗れた。
 横浜は、昨季で休部した日本リーグ機構(JBL)スーパーリーグのいすゞ自動車が前身で、試合前から記者やカメラマンに囲まれていた。一方、敗れたエクセレンスをねぎらったのは、応援に来た子どもたちの拍手だった。
 エクセレンスのセンターで米国出身のワイス団(36)さん=渋谷区=は、横浜への選手登録を誘われたことがある。元全日本代表。所属していたボッシュが昨季で休部し、日本リーグ2部、1部時代から14年活躍したスーパーリーグを離れた。
エクセレンスは遠征費もウエアも自己負担。横浜の方が経済的には恵まれている。それでもエクセレンスを選んだ理由を「選手を続けるだけでなく、子どもたちに教えたいし、スポーツに関連する仕事も自分で始めたい。このチームなら実現できると思った」と語る。
 JBL時代、子どもたちにバスケットボールを教えようと所属チームに提案したが通らなかった。「地域とのつながりを作らなげれば支援は広がらない」。それが強豪チームの相次ぐ休廃部と無関係でないと、ワイスさんは考える。
エクセレンスを設立したのは、「スラムダンク 勝利学」などの著書があるスポーツドクターの辻秀一さん(四一)=同。「スポーツは医療であり、芸術であり、教育であリ、コミュニケーションだ」との理念を掲げ、賛同する人たちによるスポーツクラブ形成を目指す。
 全国で技術指導、メンタルトレーニングなどの教室を開くとともに、子どもたちのバスケットボ―ル塾や車椅子バスケットボールのチームもスタートさせた。エクセレンスが子どもたちや車椅子バスケットの選手と一緒に練習する機会もある。関東総合選手権で選手たちを応援したのは、この仲間たちだ。
 辻さんは「今あるのは理念だけ。でも、ここから日本のスポーツに一石を投じたい」と語る。
子どもに教えたい/「ストリート」普及
「スポーツ界に一石」
 エクセレンスの登録選手は現在11人。JBLの日本リーグで活躍した人や現役の大学生らが選手選考を経て集まった。選考には漏れたが希望して練習に参加する練習生も7人いる。
 登録選手の中で、柴山英士さん(22)=杉並区=は経歴がユニークだ。高校を卒業して渡米。公園や空き地のコートで行うストリートバスケットボールに魅せられ、米国とメキシコのプロチームでプレーした。9月に帰国してからは、若者たちが集まる渋谷などのクラブで、ヒップホップ音楽とバスケットボールを組み合わせたパフォーマンスを見せている。
 日本にストリートバスケットボールを浸透させることが夢だ。そのためにバスケットボールそのものの人気を高めたい。
「ぼくがこのままの自分を表現できる所はここだけだと思った」。柴山さんは、辻さんを訪ねた時の気持ちを振り返った。
 関東総合選手権を直前に控えた11月下旬の練習後、辻さんは選手にこう問いかけた。「勝利は目的ではない。自分たちの理念を伝えるための手段。負けるより勝つ方が目立つからね。君は何を伝えたい?」。選手たちは「勝って伝えたいこと」を描きながらプレーしている。
 高度成長の時代を通り過ぎ、社会全体が閉塞(へいそく)感に包まれている。企業チームの休廃部が相次ぐスポーツも例外ではない。だからこそ「エクセレンス」が誕生したのかもしれない。生まれたばかりのチームがこれからどんな展開を見せるか。楽しみに見守りたい。
関東総合選手権の決勝でシュートするワイスさん(中央)。プレーと並行して新しい夢に向かって歩み始めた
車椅子バスケチームと一緒にミーティング。いろんな人たちが一緒にスポーツを楽しむ視点を大切にしている
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